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糖尿病の食事療法―生活に合わせた食事療法―

やしろ内科クリニック
院長 八代 均


 尿病の食事療法は「糖尿病食事療法のための食品交換表」を利用し適正カロリーおよびバランスのとれた食事とするように指導してきた。しかし、日常生活および食生活が多様性になった現在はそれで不十分であり生活に合わせた食事療法の指導が必要である。38年間の糖尿病臨床経験から食事療法に関してまとめてみた。内容は現在糖尿病患者に指導を行っているパンフレットおよび糖尿病教室のスライドを文章化したものである。
 1・食事療法の注意点
①糖尿病の治療の基本は食事療法と運動療法である薬剤の中に食事療法を疎かにすると効かなくなるものがある
②「食事療法に合わせた生活」から「生活に合わせた食事療法」へ適正カロリーおよびバランスのとれた食事だけでなく、食べ方および食事内容の検討が必要である。
③食事療法を長続きさせるために現在の食事をがらりと変えず、できることから少しずつ変える。
④食事をおいしく楽しく摂る
⑤マスコミに惑わされない
 2・よりよい食事をとるためのポイント
①食品交換表を参考に食品のエネルギー量を知る
②野菜はたっぷり摂る
③食事は決まった時間に時間をかけて摂る
④甘いものや脂っぽいものは控える
⑤薄味にする
⑥大勢で食べる場合には大皿からでなく1人分をとり分ける
⑦ながら食いはやめる
⑧多いときは残す
⑨調味料はかけずにつける
⑩お皿は小ぶりのものを選ぶ
 3・食事療法の要点
①腹七分目
②おかずの種類を多く、脂肪を控えめに
③朝食を抜かない
④夜遅く食べない
⑤1日3回食事を摂ること
⑥食事と食事の時間をあけすぎない
⑦会話しながらゆっくり食べる
⑧アルコールの注意、薬を飲んでも毒を飲まないこと
⑨朝食は早めに
⑩年齢とともに食事量に注意
⑪塩分を控えて胃癌予防
⑫ジュース類をウーロン茶、緑茶あるいは麦茶などに変える
 4・飲酒をやめなければならないのか?
飲酒は食事療法の自己管理を乱しやすく原則禁止ですが、血糖コントロールが良好で、合併症がないかあるいはあっても軽症、飲み過ぎにならないなら飲酒は可能である。ただしアルコール2単位までで、ビール500ml、ワイン240ml、日本酒1合、ウィスキーダブル1杯あるいは焼酎原液で93mlが許容量である。
 5・食後高血糖の予防食後高血糖は動脈硬化を促進することから食後高血糖の抑制が重要である。食後高血糖抑制のための食事療法は以下の通りである。
①グリセミック指数(GI)の低い食物を摂るようにする。GIは食後の血糖上昇の目安となり、高いほど食後血糖が上がりやすいことになる。
②食事の回数を1日3回とする。1日2回とすると食後高血糖となる。
③ゆっくりよくかむ
④野菜、きのこや海草をとる。食物繊維を多くとることで食後の血糖上昇を抑制する。
⑤食品の摂取順序副菜(おかず)を先に食べその後にご飯類を食べる、詳細は12、13および14で
 6・夜遅く食べるとなぜいけないのか?
①夜遅く食べると太り、肝臓に脂肪が蓄積する。
②BMAL1が午後10時頃から急に増加し午前2〜4時頃にピークとなる。
③BMAL1は脂肪をつくり、体内にため込み、脂肪の分解を抑制するホルモンである。
対処法は?
①生活を朝型に、夕食は午後8時までに済ます。
②どうしても夜型なら分割食を勧める。つまり、夕方に主食と野菜や果物を摂り、夜にそれら以外の食事を軽めに摂る。
③毎日適度の運動を行う
 7・塩分制限の利点血圧の低下、食べ過ぎの予防および胃癌の予防となる。
 8・食事療法の話題血糖を下げるホルモンがインスリン、血糖を上げるホルモンがグルカゴンである。糖尿病はインスリンとグルカゴンの両方に異常がある。糖尿病の治療はインスリンを分泌させグルカゴンの分泌を抑えることである。
①最近ののみ薬がインスリンを分泌させグルカゴン分泌を抑える(インクレチン関連薬)
②インスリンを分泌させる食べ物がご飯類(炭水化物)
③インクレチンを分泌させる食べ物が魚(EPAを多く含む)
④グルカゴンの分泌に関する食べ物が肉類
 9・インクレチンとは?食事を摂り消化された栄養素が小腸を通過するときに小腸上部からGIP、小腸下部からGLP‒1が分泌される。GIPとGLP‒1がインクレチンである。現在使用している糖尿病治療薬はGLP‒1に関係したものである(インクレチン関連薬)。GLP‒1は小腸から分泌され膵β細胞の受容体に結合し、血糖値が上昇したときにインスリンが分泌される。血糖値が低いときにインスリンが分泌されない。すなわちインクレチン関連薬は低血糖を起こさないことになる。
 10・GLP‒1の多彩な効果GLP‒1に図のように多彩な効果があり、食事によりGLP‒1の分泌促進させることが重要である。
 11・GLP‒1の分泌を促進させるには?
①魚を先に食べる、特にEPAの多い魚をEPAは鰯や鯖などの青みの魚に多く含まれ、EPAを含む魚類がGLP‒1の分泌を高める。
②乳製品を摂る
③よくかむことよくかむことでGLP‒1の分泌が高まる。
 12・食べる順番による食後高血糖の改善
①野菜を先に食べることにより食物繊維が食後高血糖を抑制する。
②魚と肉を先に食べることにより、胃から十二指腸への排出遅延により食後高血糖を抑制する。
③乳製品を先に食べることによりGLP‒1の分泌が促進されインスリン分泌が亢進する。
 13・魚の摂取順により食後血糖値の変化の実際(大館市立総合病院での自験例)2日間同じ朝食とし、1日目に朝食を摂った15分後に鯖缶50g摂ってもらい(図、黒線)、2日目に鯖缶50g摂った15分後に朝食を摂ってもらい(図、赤線)、血糖値の変化を30分ごとに測定したところ図のような結果であった。鯖缶を先に摂ったときの方が食後の血糖値が低かった。
 14・日本食の会席料理料理が出てくる順番が付き出し、吸い物、刺身、煮物、焼き物、揚げ物、蒸し物、ご飯・漬物、味噌汁、最後に果物が出て終わりである。副菜(おかず)が先に出て、最後に炭水化物(ご飯)が出て終了する、健康を考えた食事法である。
(大館市 平成29年9月15日掲載)

 

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