「筋肉病」としての糖尿病
佐々木内科医院院長
佐々木隆幸
一口に糖尿病といってもいろいろで、食事療法だけの軽症から、インスリン注射をしている人もいます。治療の目標はズバリ血糖をなるべく正常に近づけることです。最近は血糖を下げるいろいろな新薬が開発され、処方のレパートリーが増えていますが、それでもなお血糖が下がらない人も多いのです。食事療法と運動療法は、車の両輪といわれるように片方だけでは不十分です。減量しても運動が伴わないと、脂肪より先に筋肉が減るために、基礎代謝が落ちて「リバウンドしやすい」からだになってしまいます。運動不足は車社会の現代病ともいえるものです。田舎は自然に囲まれている割に、自家用車での行動が多くなり、電車やバスを乗り継いでいる都会よりも歩行距離が少なくなっています。
「糖尿病の本質は筋肉病である」という見方があります。脳は糖分を多く消費するといわれますが、インスリン刺激による糖取り込みの75%以上は骨格筋によるものとされ、筋肉にはかないません。運動不足から筋肉量が減り、筋肉内の血流が減ります。余分なカロリーが中性脂肪の形で増加して、筋肉の血流に目詰まりを起こすとも言われます。これらが積み重なって、上昇した糖分を組織に取り込んで下げるインスリンの働きが悪くなります。これを「インスリン抵抗性」といいます。
このような状態では、インスリン分泌を刺激する薬を増やしても、それに応じて血糖が下がりにくくなります。ではどうしたらいいでしょう?悪循環を好循環に変えます。筋肉を維持しさらに筋肉がつく運動をするのです。90歳代でも筋肉は増やせると言われています。筋肉はカロリーを多く消費する臓器であり、筋肉が増加することにより基礎代謝が上がる、つまり安静で消費するカロリーが増えて「太りにくい」体質になります。もちろん、散歩を日課にされているかたは続けていただけば血行もよくなり結構です。ただし、運動によって消費されるカロリーは意外と少ないのです。
では、どんな運動がよいでしょうか?以前子ども番組でイチジョウマンというコーナーがありました。体操のお兄さんがヒーローの格好で登場し、たたみ一畳の上で子どもと体操するというものです。皆さんに一畳マンになることをお勧めします。つまり、道具を使わずに屋内で簡単にできる運動から始めるのです。腕立て伏せ、腹筋運動、スクワット、ステップ昇降などのいわゆる自重トレーニングから、ダンベル体操まで一畳でできる運動は沢山あります。スクワットは下半身運動の王様と言われ、かの森光子さんも舞台を支える運動としていたのは有名です。最近はネットで多くの運動方法が動画つきで紹介されていますので、自分にあった正しいやり方を習えます。
TVで最新をうたった様々な運動器具をみているせいか、これらの運動は見くびられがちですが、体操にたいそうな器具は必要ありません。基本運動でも5分間続けるのはかなりきついはずで、集中すれば仕事の合間でも一汗かくくらいになり、まじめに取り組めば成果は出ます。でもなかなか一畳マンに変身してくれる患者さんは少ないですね。
消費税は5%から8%にアップしました。糖尿病コントロールの指標ヘモグロビンA1cが8%の皆様、これを5%に正常化させられるのはあなた次第です。頑張りましょう!
(大館市 平成26年6月6日掲載)